令和元年を迎えた今年は3年に1度の参議院議員の半数改選の年なので7月には参院選が行われますが、そのタイミングで衆議院を解散して総選挙を行う衆参同日選、いわゆる

「衆参ダブル選挙」についての報道 *1

が増えていますね。

「もはや既定路線」という声すら出ています。

前回(第48回・2017年10月22日)の総選挙に出馬せず、政界を引退した亀井静香(かめい しずか)元金融担当相は雑誌のインタビュー*2で、

“「(安倍)晋三総理は消費税増税を凍結しますよ。間違いない。凍結し、それで同時選挙だ。私は500%確信を持っています”

と断言していますが、

飯島勲(いいじま いさお)特命担当内閣官房参与は、今日発売の週刊誌*3 連載で、6月末(28日・29日)のG20前の解散はないとして、同日選の可能性は低いとしながらも、安倍首相が「悲願の憲法改正」に突き進みたいなら、同日選の断行について、

「そろそろ腹の内を固めていただく時期なんじゃないかな」

としつつ、10月に予定されている消費増税については、増税に備えて対応に追われている中小企業から総スカンを食らってしまうとして、

「絶対に予定通りの実施だよ」

と書いていました。

同氏は元々こうした観測を積極的に発言する方で、4月には「GW明け」の解散もありうる*4 としていましたが、なんといっても2014年の衆院選(第47回・2014年12月14日)前に、テレビ番組で解散日と投開票日を暴露*5 してしまった実績(前科?)がある人物なので、油断できません。

個人的には、消費増税の凍結を争点とするなら、ダブル選も歓迎したいところです。しかし、20日に発表された今年1〜3月期の実質GDPが年率換算2.1%増となったことを受け、

“ 政府・与党の幹部から今年10月の消費税率10%への引き上げを予定通り実施すべきだとの声が相次いだ ” *6

という報道には、唖然とするしかありません。確かに

「実質GDP2.1%増」

は、大方の予想を裏切る、高めの成長率でした。しかし、その実態は全く楽観できるようなものではないのです。

GDPの5割以上を占める個人消費が0.1%減となっただけでなく、設備投資も0.3%減っており、成長率を押し上げたのは、

輸入の急減

でした。

GDP=内需+外需(純輸出)

なので、輸出が減っても、それ以上に輸入が減っていれば、統計にはプラスに作用してしまいます。問題は、輸入の急減を引き起こした原因が、国内経済の停滞である可能性が濃厚なことです。

内需の減少という危険な兆候を無視して消費増税を強行すれば、令和の御代は平成を上回る衰退期となってしまうことが避けられないでしょう。

自民党の西田昌司(にしだ しょうじ)参議院国対委員長代行は、

「内需の縮小によってプラスになったに過ぎない」と指摘した上で、消費税の増税について「もう一度、党で議論すべきでないか」と言及” *7

されていますが、

“GDP発表後、自民党の幹部級で増税延期に言及したのは、西田氏が初めて” *7

ということですので、ガス抜きに終わらないことを願うばかりです。

また、

「憲法改正」

をダブル選の争点とすることについても、

反対に「改憲勢力」が3分の2を割り込むリスクがあるというのは、各種報道*8 の通りだと思われます。

そして、現在のいわゆる「加憲案」についても、現政権寄りで、改憲支持の産経新聞ですら、5月のFNNとの合同世論調査の数字を元に、

” 安倍首相が掲げる9条2項を維持したまま自衛隊の存在を明記する案について、賛成48・4%、反対35・7%となった。衆参で3分の2以上の賛成を得て改憲の発議をしたとしても、国民投票で確実に成立するかどうか、世論調査を見る限りでは微妙である。” *9

と書かざるを得ず、国民の支持を得ているとは言いにくい状況です。

また、改憲発議に漕ぎ着けたとしても、国民投票で否決されたならば、次の機会ははるか彼方に飛び去ってしまうかもしれません。そもそも、「自衛隊」を明記するだけで問題が解決するわけでは全くないのです。

例えば、日本国憲法第76条では、

「特別裁判所は、これを設置することができない」

と規定されていますが、これは、軍法会議(軍事法廷)の設置ができないということでもあります。このため、日本国憲法の施行より後に発足した自衛隊には軍法会議が存在しません。ほとんど議論されていませんが、この一点だけでも、非常に深刻な問題を孕んでいます。

その他にも改憲議論から抜け落ちてしまっている重要な論点は少なくありません。

こうした状況の背景には、政治の本質である「統治」や、その基盤としての「軍事力」の意味が見落とされていることがあるのかもしれません。

評論家の呉智英(くれ ともふさ)氏は、2016年の「18歳選挙権」が実現した際、多くの高校が「模擬投票」を実施したことについて、

政治教育ゴッコも投票ゴッコも政治理解には何の役にも立たない。お医者さんゴッコが医療理解に何の役にも立たないのと同じなのである。

呉智英著『日本衆愚社会』*10

と厳しく批判されています。また、

“日本の大学では、政治学は法学部で学ぶことになっている。東京大学では、法学部の中に法律学科と政治学科がある。他の多くの大学でも同じである。(中略) 要するに、政治学は、法学の下位区分であるか、政経学の一翼という扱いである。こういう教育体制の中で、当然ながら政治の本質が見えにくくなっている。

同上

という指摘も重要なものだと思います。

ザ・リアルインサイト2018年5月号では、呉智英氏のインタビュー映像を配信中です。

【動画4】「ポピュリズムの問題点と民主主義の暴走」
【動画5】「左右対立の混乱と政治の本質」

会員の皆様は、こちらも是非じっくりとご視聴下さい。

それでは、また。

リアルインサイト 今堀 健司

【参照・引用文献等】
*1 会期末解散なら7月21日=延長で8月4日も-衆参同日選シミュレーション(2019年5月22日・時事通信)

*2 『月刊日本』5月号
野党は民族主義的な政策を打ち出せ 元衆議院議員 亀井静香

*3 『週刊文春』5月30日号
八月四日のダブル選はない 飯島勲内閣官房参与の激辛インテリジェンス(276)

*4「解散、GW明けも。大義?関係ないよ」 飯島勲氏(2018年4月18日・朝日新聞デジタル)

*5 「12月2日に衆議院解散、14日に投開票」 安倍首相の右腕と言われる飯島勲氏がTV番組で暴露(2014年11月2日・ライブドアニュース)

*6 政府・与党「消費増税予定通り」 1~3月期GDP巡り(2019年5月20日・日本経済新聞)

*7 消費税 増税延期の検討を GDP受け自民参院幹部(2019年5月21日・ワールドビジネスサテライト)

*8 例えば、
解散風、争点に「改憲」浮上「3分の2」失うリスクも(2019年5月21日・毎日新聞)

*9【政治デスクノート】憲法改正をやるなら衆参ダブル選を(2019年5月21日・産経新聞)

*10 『日本衆愚社会』(呉智英著,小学館,2018年)

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