おはようございます。リアルインサイトの今堀です。

財務省が来年度(2019年度)予算の概算要求で、

国の借金返済に充てる

国債費を前年度比3.2%増の24兆5874億円としたことが、昨日付で報じられていました。

国の借金返済に24兆円要求へ 財務省が19年度予算で(2018年8月30日・朝日新聞DIGITAL)

ここでいう「国の借金」とは、正確には政府の負債(Government Debt)のことです。財務省の英語ページでも、ちゃんと”Central Government Debt”と記載されています↓

国債及び借入金並びに政府保証債務現在高(平成30年6月末現在・財務省)

英語ページ:Central Government Debt(As of June 30, 2018,MOF Japan)

つまり、

国の借金、1087兆円に増加 3月末、国民1人当たり859万円 (2018年5月10日・日本経済新聞)

6月末、国の借金1088兆円=1人当たり860万円(2018年8月10日・JIJI.COM)

のような

国民1人当たりの借金

という報道は全く正しくありません。それでも、財務省が四半期ごとに発表する残高は、なぜか

「国民1人当たりの借金」

と報じられ続けています。

国債は9割方国内で保有されているので実際には(ほぼ)、

国民1人当たりの政府に対する貸金

なのですね。正反対です。

ところで、あなたは財務省がYouTubeに公式チャンネルを持っていることをご存じでしたか?

MOFJapan(財務省)

2012年2月に作られていながら、現在も登録者は1400名未満なので、おそらくほとんど知られていないのではないでしょうか。「最強官庁」の公式チャンネルとしてはずいぶん寂しいですね(そもそもあまり予算をかけているようにも見えず、目的もよくわからないのですが・・・)。

それでは、ここにはどのような動画がアップされているのでしょうか?

公開動画は80本ほどで、2年ほど前までチャンネル自体がほとんど活用されていなかったようなのですが、一昨年、昨年と続けて年度初めの4月に、

  • 諸外国との社会保障比較
  • 社会保障財源に消費税を用いる理由
  • 「国の借金」が増えた理由

などの動画が数本まとめてアップされるようになり、今年は4月と7月に同様の動画がアップされています(「個人向け国債」の広告を除く)。

それぞれグラフや図表を用いた1分前後の動画で、プレゼンテーションとしてはわかりやすいものになっていますので、今年アップされた動画から、2本ご紹介したいと思います(その他の動画も、上記MOFJapanのリンクからご覧になれます)。

1本目は、

という動画です。

内容は、タイトル通り日本の財政(平成30年度の一般会計予算)を家計に例えるというもので、

収入         97.7兆円
 租税印紙収入    59.1兆円(61%)
 公債金(国債)   33.7兆円(35%)
 その他        4.9兆円( 5%)

支出         97.7兆円
 基礎的財政支出   74.4兆円(76%)
 債務(国債)償還費 14.3兆円(15%)
 利払費等       9.0兆円( 9%)

→公債(国債)残高 883兆円
※上記ニュースの「国の借金」との差異は、普通国債以外の財政投融資特別会計国債・借入金・政府短期証券等の金額です。

という財政状況を手取り30万円の家計に例えると、 

収入          50万円
 給料収入       30万円(60%)
 借金         17万円(34%)
 その他収入       3万円( 5%)

支出          50万円
 生活費        38万円(76%)
 元本返済         7万円(15%)
 利息支払         5万円( 9%)

→ローン残高     5,379万円

になるので、

家計の抜本的な見直しをしなければ、子供に莫大な借金を残し、いつかは破産してしまうほどの危険な状況です

という結論にたどり着きます。

要するに、

支出(歳出)を切り詰めて、収入(歳入=税収)を上げないと、破産(財政破綻)してしまうんですよ

と言いたいのでしょう。確かに、家計がこの状況ならば、「いつかは破産」どころか既に「実質破綻状態」です。

そもそも、担保となる資産がなければこの家計に毎月17万円貸し続けてくれる先があるはずはないのですが……。

もう1本、こちらは

というものです。

  • 日本の公債(国債)残高は年々増加の一途を辿っている。
  • 平成30年度末の残高は883兆円に上る見込みだが、これは税収の約15年分に相当する。

ので、

将来世代に大きな負担を残すことになる

そうです。ダメ押しに、

債務残高の対GDP比も主要先進国中最悪

とも付け加えられます。どちらも、かなりのミスリードであり、ツッコミどころは多数あります。

今回は、以下の2点について確認しておきたいと思います。

  1. 国債がデフォルト(債務不履行)を起こす!?
  2. 国の借金は子孫へのツケになる!?

まず、1についてです。

財務省が匂わせている破産(財政破綻)は、実は定義が不明なのですが、一般的には国債がデフォルト(債務不履行)を起こすことと考えて差し支えないと思います。

デフォルトとは、借入金の元利返済が行えなくなることですね。厳密には、元利返済を一部停止する「選択的デフォルト」と元利返済が不可能になる「無条件デフォルト」があるのですが、世界的に見れば、最近10年間でもギリシャ、アルゼンチン、プエルトリコ等複数のデフォルトが起きています。

それでは、日本がデフォルトを起こす可能性もあるのでしょうか?

答えは、

「まずありえない」というところでしょう。

これは、私の「意見」ではありませんので、他ならぬ権威の主張を引用してみたいと思います。

日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない

外国格付け会社宛意見書要旨・和訳(2002年4月30日・財務省)
同意見書英文

力強いですね。何を隠そう、財務省の見解です。これは、現在の日銀総裁である黒田東彦氏が財務官時代に、米格付会社3社(ムーディーズ,スタンダード&プアーズ,フィッチ・レーティングス)に向けて出した意見書の要旨です。大手格付会社が日本国債の格付を引き下げことに、政府が事実上抗議したという経緯です。

日本国債は、もちろん自国通貨(円)建てですね。

もう一度繰り返します。

自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない

それは当然で、政府は「通貨発行権」を持っているのですから、日本円を刷れば返済はいくらでも可能なのです。

この場合の制約は、インフレを引き起こすことなのですが、日本は超長期デフレに苦しんでいるので、それすら今は心配する必要がありません。それなのに、最近の動画では家計に例えてまで

財政破綻

を匂わせているのですから、変ですよね。このような定義不明のよくわからないQ&Aも同様です。

日本が財政危機に陥った場合、国債はどうなりますか(よくあるご質問・財務省)

まだご心配な方は、現財務大臣の(過去の)見解も是非ご覧下さい。

麻生太郎氏による「日本の借金」の解説が超わかりやすい 「経済をわかってない奴が煽っているだけ」(2010年・ログミー)

家計に例えることのおかしさが、一層明解になると思います。

次に、2つ目の「国の借金は子孫へのツケになる!?」についてです。

先程ご紹介した2本目の財務省動画「国の借金の残高はどれくらい?」の結論は、

将来世代に大きな負担を残すことになる

でしたね。国の借金(本当は「政府の借金」)が将来世代(子孫)に大きな負担を残すそうですが、これは正しいでしょうか?

ここでも、権威の見解を引いてみたいと思います。元が長文のため、抜粋と要約にはなりますが、

公債が現代の国民負担を単純に後代に遺すと云う一般論は清算しておきたい

という書き出しで始まり、

  • 財源を税金とするなら、負担するのは主に資本家階級である。
  • これを公債(国債)にするなら、税金なら負担しなくてよい階級に長期に渡って負担させることになる。
  • 例えば今必要な額を徴税によっても国債によっても、大多数の民衆の税負担には変わりがない。
  • しかし、税金は一回の負担ですむが、国債の場合、長期に渡って利子も加わるので、総額は増大する。

という内容が続きます。

結果として、国債を用いた場合に、後の世代に与える影響は、国債所有者の受け取る元利を同時代の税金から支払うことになるだけなので、所得の分配には影響が出るものの、子孫に単純にツケを残すことにはならないということです。

これは、昭和22年(1947年)4月に施行された「財政法」を、当時の大蔵官僚が解説した、

『財政法逐条解説』(平井平治著, 一洋社)

に明記されている(P.37〜38)内容です。同書の序文は主計局長名で書かれていますので、事実上大蔵省の公式見解であるととらえて良いでしょう。

なお、同書では前回(憲法9条だけではない「戦後」の呪縛)も引用させていただいたとおり、財政法四条に規定されている「赤字国債の発行禁止」の目的が、「健全財政の堅持」であると同時に、戦争危険の防止でもあることも解説されています。

この背景にある「平和主義」の呪縛が、未だに我が国に大きな影響をもたらしています(ザ・リアルインサイト2018年9月号で配信予定の佐藤健志(さとう けんじ)氏講演会収録映像で明らかにされます)。

しかし、

「国債発行が国民負担を単純に後代に遺す」

という一般論をきちんと否定している良い部分は、忘れ去られているのかもしれません。

むしろ、デフレ期に財政支出を抑制して国債を発行しなければ、必要な投資すら削減されてしまいますので、こちらの方が間違いなく子孫に大きなツケを残す結果を招くことになるでしょう。国債の保有者は、突き詰めて行けば9割が国民です。主な保有者は銀行や生保といった金融機関や年金等ですが、出し手の元を辿れば国民ですからね。

国債の保有者別内訳(平成30年3月末速報・財務省)

もちろん、国民の資産状況には大きな差異がありますので、そもそも「国民1人当たり」の計算にあまり意味がないのですが・・・。

また、上記の円グラフで明らかなように、現在の国債は4割以上を日本銀行が保有しています。日銀は事実上政府の子会社のようなものですから、日銀保有分が増えれば、国債の利払負担はその分減ることになります。

今回の結論をまとめますと、

  • 日本の「財政破綻」はまずありえない
  • 国債は子孫へのツケではない

ということです。

いずれも、他ならぬ財務省(旧大蔵省)が認めている(いた?)話です。

それにもかかわらず、「国民1人当たりの借金」という報道が繰り返される理由は、ありえない「財政破綻」の危機感を植え付けて、

増税

への抵抗を抑える目的だとしか考えられないですね。

他にも、

  • 政府債務ばかりに注目して資産にはあまり触れない。
  • そもそも国債を全て償還(返済)する必要などない。
  • 緊縮財政、増税は経済成長を阻害し、一層国債を増やす結果を招く。

等いろいろとツッコミどころがありますが、それはまたいずれ。

ご紹介した財務省の動画は、実質的にほとんどの国民が存在にすら気づいていませんし、寄せられているコメントの大半が辛辣な内容であることはまだ救いなのかもしれません。

今回の内容を、垂れ流される報道に惑わされないための一助としていただければ幸いです。

【引用図書】

『財政法逐条解説』(平井平治著,1949年, 一洋社)

(※残念ながら現在取り扱いがないようです。)

それでは、また。

今日も皆様にとって幸多き1日になりますように。

日本のよりよい未来のために。

私達の生活、子ども達の命を守るために、ともに歩んでいけることを切に願っています。

リアルインサイト 今堀 健司

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