おはようございます。リアルインサイトの今堀です。
本日は、ザ・リアルインサイトで配信中のコンテンツに関連する、数冊の書籍を
ご紹介させていただきます。
まず一冊目は、今年5月に出版された、
『刑務所しか居場所がない人たち:学校では教えてくれない、障害と犯罪の話』(山本譲司著,大月書店,2018年)
です。
世間一般のイメージと現在の刑務所の実態がいかに乖離しているのかが、実体験に加え、最近の統計等も踏まえてとてもわかりやすく解説されています。
どのくらいわかりやすいかといえば、小中学生でも読めるほどです。私も読み始めて気づいたのですが、
「学校では教えてくれない、障害と犯罪の話」
とサブタイトルにある通り、これは子供向けに書かれた本なのでした。多くの漢字にルビが振ってあるだけでなく、活字も大きいためテキスト量も決して多くありません。
おそらく、2,3時間もあれば読了可能な分量だと思いますが、わかりやすいからといって内容が薄いわけではなく、
- 殺人犯の認知件数は60年ほど減少傾向にあり、2017年は10年前よりも270件少ない920件だった。
- 2016年、新しく刑務所に入所した受刑者 約2万500人のうち、殺人犯は1%強(218人)しかいない。
- 「老老介護」の果てにというような痛ましい事案は高齢者福祉の問題である。
- 通り魔のような、全く面識のない加害者による犯行は、殺人事件全体の1割しかない。
- 未成年の犯罪検挙者数は、2016年が3万1516人で、10年前の約4分の1。
- 2016年に検挙された刑法犯のうち、65歳以上の高齢者は約4万7千人で20年前の5倍以上。
- 高齢受刑者は再犯者が多く、約70%が累犯者である。
- 受刑者の10人に2人はIQ69未満の知的障害者である。
といった衝撃的な数字も随所で紹介されており、犯罪報道を見ているだけでは知ることが難しい事実も、俯瞰的に抑えていただくことができるでしょう。
このような「社会の現実」を、子供にも知る機会が与えられることには意味があると思います。
ザ・リアルインサイト2018年9月号で配信中のインタビューでも、龍谷大学法学部教授の浜井浩一(はまい こういち)氏に、報道では知ることのできない日本の「真の治安状況」について、じっくりとお伺いしています。
その中で、「日本の刑務所の実態」を世に知らしめ、犯罪に関する政策にも変化を及ぼすきっかけとなった著作として、
この山本譲司(やまもと じょうじ)氏の
『獄窓記』(ごくそうき)文庫版(山本譲司著,新潮文庫,2008年)※原書の発行は2003年
に触れられていますが、山本氏は社民連時代の菅直人元首相の秘書を務めた経験もある、旧民主党所属の国会議員でした。
2000年9月に政策秘書給与詐取事件で東京地検特捜部に逮捕され、2001年2月に懲役1年6月の実刑判決を受けた後、控訴を取り下げて服役することになった栃木県黒羽(くろばね)刑務所にしたのは、「犯罪者」のイメージとはおよそ結びつきにくい、多くの高齢者や知的障害者といった人々だったのです。
『累犯障害者』文庫版(山本譲司著,新潮文庫,2009年)※原書の発行は2006年
では、服役中の体験を元に、知的障害者や聴覚障害者といった人々が起こした事件のうち、大きく報道されたものについても丹念な取材に基いて取り上げられています。
や
といった、発生当時大きく報道された事件も、その背景・真相を知っていただければ、間違いなく強い衝撃を受けられるはずです。
そして、以前
「冤罪の恐怖と犯罪報道」
でもお伝えしましたように、
「オウム真理教事件」
「神戸連続児童殺傷事件」
「栃木リンチ殺人事件」
「桶川ストーカー殺人事件」
といった1990年代に発生したいくつかの事件がセンセーショナルに報じられたことにより、世論は
「厳罰化」
に大きく傾きました。
しかし、我々が一般的にイメージする、殺人等のいわゆる「凶悪犯罪」や少年犯罪が増加しているという事実は、全くありません。
それにも関わらず、「厳罰化」によって懲役刑の判決が下された受刑者は急増してしまいました。最も多い罪名は「窃盗」です。しかも、生活困窮のために、「万引き」や「無銭飲食」をしてしまい、繰り返し刑務所に収監される高齢者や知的障害者が急増したのです。
浜井氏がご著作(共著)、
『犯罪不安社会 誰もが「不審者」?』(浜井浩一・芹沢一也著,光文社新書,2006年)
で紹介されている、「体感治安」の調査結果は、非常に興味深いものとなっています。
「二年前と比較した治安状況(犯罪の増減)」
について、全国を対象に無作為抽出で実施されたもので、「日本全体」と「居住地域」、それぞれに同じ質問をしています。
「犯罪が増えていると思うか」との問いに、
「とても増えた」
と回答している人は、「居住地域」では3.8%だったのに対し、「日本全体」では49.8%にも上っています。
「やや増えた」
を含めると、「居住地域」では27.0%になるのに対し、「日本全体」ではなんと、90.6%と大部分を占めてしまうのです。
(同書P.51-52)
自分の居住地域で「犯罪が増えた」と思っている人は、概ね四人に一人しかいなかったにも関わらず、
「日本全体」については大多数の人が「犯罪が増えた」と思っていたということになります。
つまり、日本全体では「犯罪が増えた」という認識を持っている人がほとんど(9割超)になっているのに、自分の生活圏で「犯罪が増えた」と思っている人はそれほど多くなかったということですね。
同書の冒頭でも、この「体感治安」のわかりやすい例が挙げられています。ある刑務所における、浜井氏と刑務官との会話です。
「最近いやな事件が多いですね、日本はどうにかなってるんですかね」
『犯罪不安社会 誰もが「不審者」?』(浜井浩一・芹沢一也著,光文社新書,2006年)P.7-8
「目の前の受刑者を見ていて、本当にそう思う?」
私がそう問い直すと、初めて、
「あっそうですね、そういえば、年寄りと病人や外国人ばかりで、おかしいですね」
という返事が戻ってきた。治安の最前線にいる刑務官ですら、メディアの影響を強く受け、目の前で起きている事態との落差に気がつかないのである。それほどまでに治安悪化という「神話」が強固に刷り込まれていることに私は驚きを禁じえなかった。
犯罪に限ったことではなく、実体験よりもテレビの中の世界をより強く「現実」と認識してしまう傾向が我々にあることは否めないと思います。
問題の解決には多数の関係者の粘り強い努力が継続されることが必要ですが、そのために重要なのは
「正しい問題認識」
以外の何者でもないはずです。
そして、あらゆる政策に影響を及ぼす「世論」は、誤った方向へと誘導してしまう危険を常に孕んでいます。明らかに誤った政策で問題を解消どころか拡大させてしまったり、無用な政策によって新たな問題を生み出すことは、本来は避けていかねばならないことでしょう。
そのための一助として、ご紹介した書籍をご活用いただければ幸いです。
【引用図書】
『刑務所しか居場所がない人たち:学校では 教えてくれない、障害と犯罪の話』(山本譲司著,大月書店,2018年)
『犯罪不安社会 誰もが「不審者」?』(浜井浩一・芹沢一也著,光文社新書,2006年)
また、会員の皆様は、浜井浩一氏のインタビューも是非じっくりとご覧下さい。
それでは、また。
今日も皆様にとって幸多き1日になりますように。
日本のよりよい未来のために。
私達の生活、子ども達の命を守るために、ともに歩んでいけることを切に願っています。
リアルインサイト 今堀 健司
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