おはようございます。リアルインサイトの今堀です。

さて、安倍首相が下馬評通り、自民党総裁選に圧勝して三選を果たしましたね。10月1日には党役員人事や内閣改造が行われるそうです。安倍首相はすでに、麻生財務大臣と菅官房長官を留任させる意向は固めていると報じられていました。

石破氏健闘 人事に影響は(2018年9月20日・FNN PRIME)※リンク切れ

今後待ち受けているのは、

  • 安倍首相の悲願である改憲発議と国民投票
  • 来年5月1日の皇太子殿下即位と改元
  • 来年10月1日の10%への消費税増税
  • 2020年の東京五輪

等ですが、その他にも注視が必要なことは数多くあると思います。

個人的に気になったのは、少し前に石破氏が街頭演説で、

社会保障の仕組みを根底から変えていきたい。病気にならず、介護を受けずに済む社会を作らなければならない。答えは1年で出す

自民総裁選 石破氏「10年で所得を3割伸ばす」(2018年9月17日・NHK NEWS WEB)※アーカイブ

と述べていたことです。

「病気にならず、介護を受けずに済む社会」

が本当に実現できるのならば、この上なく素晴らしいことだと思います。

しかし、

「答えは1年で出す」

などということが可能だとは到底思えませんでした。もし、無理やりそれを目指すことになっていたら、

「やっぱりできません」

ということにならざるを得なかったのではないでしょうか。

ともあれ、介護を含めた社会保障の問題は重大ですので、もっと真剣に議論されなければならないと思います。

最近、老人性痴呆(認知症)を扱った作品として有名な有吉佐和子氏の著作、

『恍惚の人』(1972年・新潮社)

を読む機会があったのですが、登場人物の心理描写や情景が鮮明に浮かぶような筆致が非常に秀逸で、一気に読了してしまいました。

私が生まれた第一次オイルショックの年の前年、つまり「高度経済成長」の末期に刊行された作品で、1972年の年間1位となる194万部を売上げたベストセラーだということなので、お読みになったことがある方も少なくないことでしょう。

まだ「恍惚」という言葉の意味も知らない子供の頃、周囲の大人の会話に何度も出てきていたことを覚えています。

進行していく痴呆の描写があまりにリアルで、20年以上前に亡くなった祖父を思い出しました。同書には、痴呆だけでなく寝たきり老人も取り上げられ、「人格欠損」という恐ろしい表現も登場します。

意外だったのは、「介護」という言葉が使われていないことでした。主人公の女性が苦闘し続け、家庭崩壊の危機に至る原因は「介護」そのものですが、当時はまだこの言葉自体が存在していなかったようです。「老人性痴呆」という言葉も、舅を医師に診せた際に初めて知り、老人ホームについて調べている最中に、「寝たきり老人という専門用語」があるということも知らされる描写がありました。

また、痴呆という問題を、「平均寿命が延びた裏側の悲劇」と登場人物が語る箇所があり、平均寿命は男性が69歳で、女性が74歳であることについて、

「五年も男は短命なんですか」

という台詞も登場していました。

厚生労働省によれば、これは1970年時点の数字(男性:69.31歳・女性:74.66歳)のようです。

平均余命の年次推移(厚生労働省)※平均寿命=0歳の平均余命

2017年の平均寿命は男性が81.09歳、女性が87.26歳となったそうなので、50年弱で男女ともに10年以上延びたことになりますね。

平均寿命、男女とも最高更新 世界で女性2位、男性3位(2018年7月20日・朝日新聞)

前掲書は、ユーモアを交えた部分も随所にありますし、決して暗いだけの内容ではないのですが、

  • 昭和八十年には六十歳以上の人口が 三千万人を超え、日本は超老人国になる
  • 今から何十年後の日本では六十歳以上の 老人が全人口の八十パーセントを占めるという
  • 今の日本が老人福祉では非常に遅れていて、人口の老齢化に見合う対策は、まだ何もとられていない
  • 日本の人口の老齢化が近年急速に進んでいる事実と、欧米先進国にはまだまだ老人対策は及んでいない現実

といった悲観的な記述も多数登場します。

実際に、少子高齢化のみならず晩婚化も進んだ現在は、ダブル介護、ダブルケアといった問題も深刻化しているようです。

現政権が2015年に打ち出した「1億総活躍社会」の重点として、

「介護離職ゼロ対策」

というものがありました。

これを本当に実現しようとするならば、介護報酬の引き上げや介護の必要な老人を減らすための対策にこそ、もっと積極的な支出や投資が必要なのではないかと思います。少し前のものですが、こうした記事も大いに参考になるのではないでしょうか。

スウェーデンにはなぜ「寝たきり老人」がいないのか(2015年9月27日・現代メディア)

この国は老人を捨てるつもりか? 疲弊した介護現場に落とされる爆弾(2016年12月21日・現代メディア)

経済評論家の三橋貴明氏によれば、

介護福祉士として登録している「日本人」は140万人を超す。それにもかかわらず、従事率は55%前後の横ばいで推移したまま

大移民時代に突入した「亡国のニッポン」を憂う(2017年11月19日・産経ニュース)

だということです。もちろん、最大の原因は介護報酬が低いことでしょう。同氏は、財務省の緊縮財政路線が、問題を深刻化させていることを指摘されています。

そして、「人手不足」による賃金上昇を阻むことになる、外国人の活用は加速しているようです。

介護留学生倍増、1000人超え 養成校入学の6人に1人(2018年9月18日・日本経済新聞)

安価な労働力として、外国人労働者の受け入れを進めながら、

「移民ではない」

と強弁し、誰も求めていない未来に突き進んでいるように思えているような気がしてならないのですが、

あなたはどうお考えになるでしょうか?

それでは、また。

リアルインサイト 今堀 健司

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