7都府県への「緊急事態宣言」発出から今日で2週間が経過し、安倍首相は、
「人との接触を8割削減する」
目標の実現に向けた、一層の協力を呼びかけました。*
「10万円の一律給付」が決まり、「すべての手続きを非接触で行う」*2と公表されたことは評価できます。
しかし、これで「自粛要請」に伴う補償が十分になされたとは言い難く、今後も継続的な給付が必要である可能性は高いと思われます。困窮されている事業者の方々への救済も別途必要でしょう。
また、
「スピードも重視した」 *3
としながら、支給開始は
「早ければ5月にも」*4
ということですので、すでに支給を実施している国もあることを考えれば、まだまだ多くの課題があると言わざるを得ません。
ジョンズ・ホプキンス大学によれば、本日午後5時38分時点で、新型コロナウイルスの感染者数は世界全体で248万6964人、死者数は170,507人となっています。我が国の感染者数も1万人を超え、4月8日に安倍首相が語った、
「2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができるとの試算」*5
が実現するかも不透明です。*6
感染拡大を防ぎ、事態を一日でも早く収束させるために、安倍首相には今こそ、
「プライマリー・バランス黒字化」
という全く無意味な目標を破棄して、財政拡大に舵を切るリーダーシップを発揮していただきたいと思います。
コロナウイルスの感染拡大が世界に与えた影響は経済に限らず甚大で、さまざまなイベントも中止または延期が相次いでおり、今年11月にイギリスのグラスゴーでの開催が予定されていた第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)も、来年に延期されることが決まっています。
この決定にあたり、エスピノーザ条約事務局長は、
「新型コロナは最も緊急な脅威だが、気候変動が長期的な最大の脅威であることを忘れてはならない」
と述べました。*7
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価報告書では、第1次〜第5次と新たな公表がなされるたびに、
「人間活動によって地球温暖化が起きている」
ことの科学的確かさは高まり続けてきました。
また、
“ 科学専門誌の査読済論文の著者69,406人のうち、「地球温暖化は人為的なものである」という仮説に異議を唱えていたのはわずか4人だけで、論文審査のある科学誌のなかには人為起源説(anthropogenic global warming,AGW)に反論できるだけの説得力あるエビデンスは見当たらない” *8
という調査があり、
「人為起源の地球温暖化」
は、もはや科学的に否定しがたいものとなっています。
それでも、ネット上ではいまだに
「温暖化懐疑論・否定論」
が、猖獗を極めているようです。
例えば、YouTubeにアップされているスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんのニュース*9 には、高評価を大幅に上回る低評価が入っているだけでなく、常軌を逸した悪罵を含め、凄まじい批判コメントが寄せられているほどです。
こうした状況が日本よりも顕著なのはアメリカで、一定の懐疑派が根強く存在しています。
ワシントンのピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)が2015年に行った調査によると、
「人間の活動により地球は温暖化しつつある」
と認めた人は、共和党保守派支持層で10%(57%は温暖化そのものを否定)、共和党穏健派支持層で36%、無党派層で53%、民主党穏健派支持層で63%、民主党リベラル派支持層で78%となっており*10、政治イデオロギーによって温暖化に対する姿勢に顕著な相違が見られます。
米ハーバード大学心理学教授のスティーブン・ピンカー氏はこれを、
“結局のところ、人的な気候変動を認めるか認めないかは、科学知識の有無ではなく、政治的イデオロギーによって分かれる” *11
と評しています。ただ、この傾向も現在変わりつつあるとして、
“人の心には常に自分と現実をつなごうと する部分もあるので、反証が増えるにつれて認知的不協和が大きくなり、やがて 耐えられなくなって持論は崩壊する。これを「感情の転換点(affective tipping point)」と呼ぶ。(中略)気候変動に関する世論はいまこの転換点にさしかかりつつある” *12
とも述べています。だとすれば、現状に絶望する必要はないのかもしれません。
残念ながら、温暖化懐疑論・否定論は、そのどれもが初歩的な科学知識の欠落によるものであったり、既に否定され尽くした論拠に基づいています。イデオロギーや希望的観測には、現実の環境を変える力はありません。
2018年にノーベル経済学賞を受賞したイェール大学教授のウィリアム・ノードハウス氏は、
“我々は気候のサイコロを投げている。その結果は数々の「サプライズ」を引き起こし、場合によっては深刻な事態を招く恐れもある。だが、気候カジノには足を踏み入れたばかりだ。今なら向きを変え、そこから出ることができる” *13
と述べています。
気候変動がもたらす影響の予測にはもちろん不確実性がありますが、そうだとしても、慎重な予防策は講じるべきでしょう。
気候変動への対処は、数十年単位の継続が必須であり、もし幸運にも予測が誤っていたならば、いつでも対応を変えることは容易なのですから。
そうはいっても、気候変動はすでに台風、ハリケーン、山火事、熱波といった甚大な影響を世界にもたらしているだけでなく、今後さらに新しい脅威を現実化させる可能性もあります。
飢餓や水不足、都市の水没と難民の大量発生等に加え、歴史上人類を苦しめ続けてきた、感染症の拡大もその一つです。
厚生労働省は、以前から温暖化による感染症拡大の危険性を警告*14 していますし、次のような恐ろしい観測もあります。
“ アラスカで見つかったのは、1918年に大流行して5億人が感染し、5000万人が死亡したインフルエンザ、いわゆるスペイン風邪のウイルスの残党だ。5000万人というと当時の世界人口の約3パーセントであり、時を同じくする第一次世界大戦の死者の6倍近い。シベリアの永久凍土には、ほかにも天然痘ウイルスやペスト菌など、過去に人類を大いに苦しめた病原菌が潜んでいるのでは ないか。研究者はそう考えている” *15
すでに、シベリアの永久凍土融解によって溶け出した炭疽菌がトナカイを大量死させただけでなく、人間にも死者を含む多くの感染者が出たこともあります。*16
幸いにも、我が日本はまだ、深刻な被害を受けてはいないといえるのかもしれません。
しかし、それによって当事者意識が希薄であることも否めないのではないかと思います。
目を逸らしても、問題が勝手に消えてなくなってくれることはありません。
【ザ・リアルインサイト】2020年4月号の2つ目のコンテンツでは、IPCC第1作業部会第2次〜第5次評価報告書の執筆者をお務めになり、現在第6次評価報告書の執筆者もお務めになっている、気象学者・鬼頭昭雄(きとう あきお)氏のインタビュー収録映像を、配信中です。
- 地球温暖化は観測事実から明白である
- 多くの人命を奪う“熱波”が激増している
- 台風、ハリケーンの強度と発生頻度はどう変わるか
- 人為的な気候変動の問題はその「速度」にある
- 気候フィードバックとは何か
- 「平均気温2度上昇」の破壊的影響は避けられるのか
- カリフォルニア、オーストラリア、アマゾンの森林火災が拡大する理由
- 加速を続ける気候変動の脅威とは
- 地球温暖化は感染症を拡大させるのか
- 文明発生前の気候変動がなぜ正確にわかるのか
- 懐疑論・否定論を広めているのは化石燃料企業である
- 温暖化懐疑論者の“2つの動機”
- 気候変動の政治問題化が人の理性を失わせる
- 有望な気候変動対策とはどのようなものか
- 我々は今、何をなすべきか
といったポイントで、お話をうかがっています。会員の皆様は、是非じっくりと全編をご視聴ください。
また、一部はこちらで公開中です。
-ザ・リアルインサイト2020年4月号-
【2020年4月号】
コンテンツ(2)
気象業務支援センター研究員
鬼頭昭雄氏インタビュー収録映像
【動画1】
「すでに現実化している気候変動の影響」
【動画2】
「なぜ温暖化懐疑論はなくならないのか」
総収録時間149分
それでは、また。
リアルインサイト 今堀 健司
【引用・参照元】
* 緊急事態宣言から2週間 接触8割減へ 一層の協力求める 首相(2020年4月20日・NHK NEWS WEB)
*2 10万円一律給付 対象や手続きの方法は 総務省が発表(2020年4月21日・NHK NEWS WEB)
*3 10万給付の時期「短縮可能」 首相「一昨日夜知った」(2020年4月17日・朝日新聞デジタル)
*4 10万円給付、5月にも開始… 4月27日時点で住民基本台帳記載の全ての人が対象(2020年4月17日・読売新聞オンライン)
*5 安倍首相が緊急事態宣言、2週間後にピークアウト目指す(2020年4月8日・日経バイオテク)
*6 新型コロナウイルス国内感染の状況(東洋経済オンライン)
*7 COP26、開催を来年に延期 新型コロナ感染拡大で(2020年4月2日・朝日新聞デジタル)
*9 16歳グレタ・トゥンベリさん温暖化対策で涙の訴え【全文】(2019年9月24日・テレ東ニュース)
※動画です
*11 『21世紀の啓蒙(下)』P.242(スティーブン・ピンカー著,草思社,2019年)
*12 『21世紀の啓蒙(下)』P.279-280(スティーブン・ピンカー著,草思社,2019年)
*13 『気候カジノ 経済学から見た地球温暖化問題の最適解』P.7(ウィリアム・ノードハウス著,日経BP 2015年)
*14 「地球温暖化と感染症~いま何がわかっているのか?~」(2007年3月・厚生労働省)
*15 『地球に住めなくなる日』P.130(デイヴィッド・ウォレス・ウェルズ著,NHK出版,2020年)
*16 トナカイの死骸から炭疽菌感染か、13人入院 シベリア西部(2016年7月29日・CNN.co.jp)
解ける永久凍土と目覚める病原体、ロシア北部の炭疽集団発生(2016年8月15日・AFP BB NEWS)
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