コロナ禍が引き起こした世界的な不況によって、
MMT(Modern Monetary Theory,現代貨幣理論)
が再び注目を集めているようです。
世界中の多くの国で実施された感染対策のための経済活動の停止が、
「大恐慌以来最悪」
の世界的大不況の引き金となり、各国が大規模な財政出動を実施せざるを得なくなりました。
もちろんわが国でも2度の補正予算が組まれたことは、皆様もご存じのとおりです。
しかし、ここで多くの人々の脳裡に浮かぶのは、さんざん刷り込まれてきた
「財政破綻」
という神話でしょう。
大規模な財政支出の結果、ただでさえGDPの200%を大きく超えていて、
「世界最悪の水準」
とされている政府債務がさらに加速度的に膨張することになり、いよいよ国家財政の破綻が現実のものとなるのではないかと考えた方も少なくないはずです。
評論家の中野剛志氏は、このような流れで財政政策への関心が高まったことが、
「MMTブームの第2波」*
を引き起したと表現されています。
わが国のコロナ対策は、海外メディアから
“Too Little Too Late” *2
と報じられたように、真水では57.5兆円程度で名目GDPの10%強にとどまっており、全く不十分なものでした。
それでも、この追加歳出によって今年度の「PB(プライマリーバランス)赤字」は当初段階の9.2兆円から66.1兆円となることが見込まれており、 *3
2025年度のPB黒字化目標を維持している政府が、
「コロナ増税」
という選択に至るのではないかという観測もあります。*4
これはもちろん、
“ 日本や米国のように「通貨主権」を有する政府は、自国通貨建てで支出する能力に制約はなく、デフォルトを強いられるリスクもない。財政赤字や国債残高を気にするのは無意味である” *5
“ 政府にとって、税金は財源ではなく、国債は資金調達手段ではない。政府が先に支出をしない限り、民間部門は税金を納めることも、国債を購入する ことも論理的に不可能である。税金は所得、国債は金利にはたらきかけ、経済を適正水準に調整するための政策手段である” *5
という事実を明らかにしているMMTに基づけば、全く愚かで意味のない政策です。
しかし、かつて民主党政権が東日本大震災という国難において、「復興増税」という信じがたい暴挙に出たことや、
“ 責任政党としてわが党が主導して、前回総選挙のマニフェストで国民に約束をしていなかった民主党を巻き込みながら、公明党とともに社会保障と税の一体改革に関する三党合意を結びました” *6
などと、その民主党に「消費増税」を決断させた「三党合意」を自ら主導したことを誇っているのが現在の政権与党であることを考えれば、杞憂であるとは言えないでしょう。
長く日本国民を苦しめてきた、誤った財政政策を転換するには、一人でも多くの国民が、正しい政府の役割を理解するしかありません。MMTはそのための強力な武器となる
はずです。
MMTに関しては、昨年から多くの良書が刊行されているものの、同時にかなりいい加減な書籍も登場しています。
これまでにも、複数の書籍をご紹介してきましたが、最近になって、MMTの主唱者として知られ、2015年には米国民主党のチーフ・エコノミストを務めたステファニー・ケルトン氏の著作
『The Deficit Myth: Modern Monetary Theory and the Birth of the People’s Economy』
の邦訳が刊行されました。
『財政赤字の神話: MMTと国民のための経済の誕生』 *7
こちらが、期待通りかなりの良著でしたので、簡単にご紹介させていただきます。
まず、タイトルの「財政赤字の神話」とは
- 政府は家計と同じように収支を管理しなければならない
- 財政赤字は過剰な支出の証拠である
- 国民はみな何らかのかたちで国家の債務を負担しなければならない
- 政府の赤字は民間投資のクラウディングアウト(押し出し)につながり、国民を貧しくする
- 貿易赤字は国家の敗北を意味する
- 社会保障や医療保険のような「給付制度」は財政的に持続不可能だ。もはや国にそんな余裕はない
という6つの打破すべき「誤った」思い込みを意味しています。
これらすべてが、理路整然とした反論で順番に粉砕されていく内容は痛快です。
大前提として、政府は「通貨の発行者」であり、他の全ての経済主体とは決定的に異なっているという厳然たる事実があります。
“ バスケットボールを観戦するとき、ポイントはどこから来るのか考えてみよう。答えは「どこからも来ない」だ。記録者が作り出すだけである”
(同書P.51)
“ 政府が財政支出や徴税をするときに、ドルを足したり引いたりするのも同じである。
政府が支出してもお金が「減る」ことはないし、税金として集めてもお金が「増える」わけではない”
(同書P.52)
といった平易な表現を駆使して、
- おカネとはなにか
- 通貨主権とはなにか
- 財政赤字そのものが問題ではない理由
- 貿易赤字が悪ではない理由
- MMTの政策提言とはどのようなものか
がすっきりと理解できる内容になっていますので、ご関心を持たれた方は、是非手にとってみていただきたいと思います。
また、ザ・リアルインサイト10月号では、昨年L・ランダル・レイ氏の
『MMT現代貨幣理論入門』*4
の監訳を務められた、
経済評論家で株式会社クレディセゾン主任研究員の島倉原(しまくら はじめ)氏の講演会映像
「MMT(現代貨幣理論)から見た日本経済(前編)」
「MMT(現代貨幣理論)から見た日本経済(後編・対談)」
「MMT(現代貨幣理論)から見た日本経済(質疑応答)」
(収録時間:2時間43分)
を配信中です。
会員の皆様は、こちらも是非じっくりとご視聴ください。
また、非会員の方は、今月中にこちらからお申し込みいただくと、全編をご視聴いただけます。
https://www.realinsight.co.jp/lp/tri/corona2020/letter/
特典動画もありますので、是非今すぐ内容をご確認ください。
それでは、また。
【参照・引用元】
* 新型コロナが引き起こす「MMTブーム」の第2波(2020年6月1日・東洋経済オンライン)
*2 Japan’s coronavirus response is too little, too late(2020年4月11日・ワシントン・ポスト)
*3 【図解・行政】財政赤字明確化のイメージ図(2020年7月)(2020年7月2日・JIJI.COM)
*4 コロナ支出の58兆円「増税」でカバーの可能性、専門家指摘(2020年7月30日・女性自身)
*5 『MMT現代貨幣理論入門』(L・ランダル・レイ著,東洋経済新報社,2019年)
*7 『財政赤字の神話: MMTと国民のための経済の誕生』(ステファニー・ケルトン著,早川書房,2020年)
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