いわゆる「大阪都構想」の住民投票日が1週間後に迫っています。*
その正式名称は、
「大阪市における特別区の設置についての投票」
というもので、賛成多数となったとしても、「大阪都」が新たに誕生するわけではありません。
その実態は、
「政令指定都市の廃止・解体」
という前代未聞の選択なのです。
都道府県に匹敵する強大な権限を持つ政令指定都市をあらたに目指す動きは、各地に多数あります。*2
しかし、獲得した権限をわざわざ放棄するような選択を住民に迫っているのは、大阪市のみです。
横浜、神戸、仙台、札幌、福岡等に置き換えてみれば、このような議論が生じることすら考えにくいでしょう。
住民投票により、「大阪市解体」が実現すれば、大阪市民がかなりの不利益を被ることは避けられません。
その具体的な危険性については、130名を超える学者からも、所見が表明されています。*3
「大阪都構想」は、既に一度、2015年5月17日に実施された住民投票で、0.8ポイントという僅差で否決・廃案となっています。*4
当時、大阪維新の代表を務めていた橋下徹元市長は「住民投票は一度きり」と言って、任期満了後に政治家を引退しました。
しかし、大阪維新の会は「二重行政の解消」を最大の焦点としており、*5
その手段としての「都構想」の実効性には多くの疑義があるものの、それこそが「存在理由」に他なりませんので、一定の勢力を維持している限り、何度でも挑戦するのではないかと思われます。
今回も、徐々に反対が拡大しており、調査によっては賛成を上回っています。*6
それでも、結果は蓋を開けてみるまでわかりません。
「大阪都構想」に賛成する市民の動機は、このままではいけないという焦りや閉塞感、不満に根源があるのでしょう。
しかし、住民投票の対象とされる前例のない「改革」は、そうした現状の解決にはおよそ結びつかない内容なのです。
扇動された急進的な改革は、取り返しのつかない破壊につながってしまうかもしれません。
「保守主義の父」と呼ばれる英国の思想家・政治家のエドマンド・バークは、急進的な改革の危険性について、次のように語っています。
これまで一度も験されなかったことについて困難は起きません。存在しなかったものの欠点を発見することにかけて、批判はまず失敗するものです。そして、激しい熱狂と欺瞞的希望は、反対にも殆どあるいはまったく出会わずに、広大な想像の原野を楽々と歩き廻ることができるのです”
『フランス革命の省察』*7
また、スペインの哲学者オルテガ・イ・ガセットは、
饑饉が原因の暴動では、一般大衆はパンを求めるのが普通だが、なんとそのためにパン屋を破壊するというのが彼らの普通のやり方なのである。この例は、今日の大衆が、彼らをはぐくんでくれる文明に対してとる、いっそう広範で複雑な態度の象徴的な例といえよう”
『大衆の反逆』*8
として、衝動の赴くままに放置された大衆は、「自己の生命の根源を破壊する傾向をつねに示すものである」ことを警告しています。
現在の大阪市民が置かれているのは、まさにこのような状況なのではないでしょうか・・・
もちろん、時代状況に合わなくなった制度には、改革も必要でしょう。
しかし、その手段は前提となっている制度を破壊してしまうようなものではなく、慎重な改良・改善を積み重ねていくべきなのです。
その意味では、我が日本が世界に誇る国民皆保険制度が、危機的な状況にあることは見過ごせません。
内閣府大臣官房審議官 (科学技術・イノベーション担当)という現職官僚の江崎禎英(えさき よしひで)氏は、
2018年に刊行された『社会は変えられる:世界が憧れる日本へ』の冒頭で、
誰もが当たり前のように利用している公的医療保険が危機的な状況にあるのです。加えて、2000年にスタートした「介護保険制度」も既に赤信号が点滅しています”
『社会は変えられる:世界が憧れる日本へ』*9
として、このままいけば、
日本でも近い将来、「お金がないために必要な治療を断念せざるを得ない」、「お金がないために愛する人の死を受け入れなければならない」、「お金がないために医者として助けられる命を見捨てなければならない」、そんな厳しい選択を迫られる日が来ることになります”
『社会は変えられる:世界が憧れる日本へ』*10
と恐ろしい未来を語っています。
国連等の基準では、人口全体に占める65歳以上の高齢者の割合(高齢化率)が7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢社会」とされています。
そして、日本の高齢化率は2020年9月時点で28.7%と過去最高を更新しました。*11
すでに国民の4人に1人以上が高齢者という時代を迎えているわけです。
拡大し続ける社会保障費が、国家財政を圧迫し、いずれ財政破綻を招くのではないかという懸念は、すでに広く国民に共有され、だからこそ消費増税もやむなし、と考えている方は多いことでしょう。
しかし、江崎氏が主張している「解決策」は、増税でも切り捨てでもありません。
そもそも、「高齢化に“対策”は必要なのか?」という根源的な問いから発し、様々な具体策を提唱されています。
すでに具体化している取り組みもあり、国民負担増でも弱者切り捨てでもない「解」を追求され続けています。
MMT(現代貨幣理論)を持ち出すまでもなく、通貨主権を持つわが国の政府が「財政破綻」を起こすことはありえません。
それでも、社会保障支出の中身が本当に「国民のため」に活用されているのか、そして、国民皆保険が現在のままで維持可能なのかについては、大きな問題が存在しているのです。
ご関心を持たれた方は、是非前掲書をお手にとってみてください。間違いなく、目から鱗を落としていただけることでしょう。
また、ザ・リアルインサイト10月号では、2つめのコンテンツとして、
内閣府 大臣官房審議官 (科学技術・イノベーション担当)江崎禎英氏のインタビュー収録映像
「社会は変えられる〜不可能を可能にしてきた現職官僚に聞く明るい日本の未来(前編)」
「社会は変えられる〜不可能を可能にしてきた現職官僚に聞く明るい日本の未来
(後編)」
(収録時間:2時間39分)
を配信中です。
会員の皆様は、是非じっくりとご視聴ください。
また、非会員の方は、今月中にこちらからお申し込みいただくと、全編をご視聴いただけます。
https://www.realinsight.co.jp/lp/tri/corona2020/letter/
特典動画もありますので、是非今すぐ内容をご確認ください。
それでは、また。
リアルインサイト 今堀 健司
【引用・参照元】
* 11月1日(日)「『大阪都構想』住民投票 開票速報 」の放送について(NHK 関西ブログ)
*3 「大阪都構想の危険性」に関する学者所見(2020年10月21日・サトシフジイドットコム)
「大阪都構想」は想像以上にキケンだった…!「激しい行政サービスの低下」は確実(2020年10月24日・現代ビジネス)
*4 大阪住民投票 反対多数 都構想実現せず(2015年5月17日・NHK NEWS WEB)※アーカイブ
大阪都構想、東京と何が違う? 素朴な疑問を徹底解説(2020年10月24日・朝日新聞デジタル)
*6 大阪都構想住民投票2020(ABCテレビ×JX通信社)
大阪都構想 反対が賛成上回る 9月上旬の前回調査から賛否逆転 世論調査(2020年10月25日・毎日新聞)
*7『フランス革命の省察』(エドマンド・バーク著,半澤孝麿訳,みすず書房,1997年)p.212
*8『大衆の反逆』(オルテガ・イ・ガセット著,神吉敬三訳,ちくま学芸文庫,1995年)p.82
*9『社会は変えられる: 世界が憧れる日本へ』(江崎禎英著,国書刊行会,2018年)p.8
*10 同書p.9
*11 統計からみた我が国の高齢者(2020年9月20日・総務省)
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