おはようございます。リアルインサイトの今堀です。
ザ・リアルインサイト8月号コンテンツで講演会収録映像を配信中の評論家、中野剛志(なかの たけし)氏が、最新刊の
で取り上げられていたので知ったのですが、英国人ジャーナリストのダグラス・マレー(Douglas Murray)氏という人物が昨年著した、
『ヨーロッパの奇妙な死』(The Strange Death of Europe:Immigration, Identity, Islam,2017年7月)
という本があります。残念ながら未邦訳なので、原書を購入してみましたが、英語のため、なかなか読み進められておりません。。。
ですので、中野氏の翻訳をお借りして、概要の一部をご紹介させていただきます。
「ヨーロッパは自殺しつつある。あるいは、少なくともその指導者たちは自殺することを決めた」(”Europe is commmitting suicide. Or at least its leaders have decided to commit suicide.”)
という書き出しで始まるこの書籍のタイトルが示すのは、
「移民・難民の大量受け入れ」
はヨーロッパの文明を自殺させる過ちであるという衝撃的な主張です。冒頭の文章には、英国のみならず他の欧州諸国も
「この運命からは逃れられない」
として、絶望的な将来展望が続きます。
「結果として、現在生きているヨーロッパ人の殆どの寿命が終わる頃には、ヨーロッパはヨーロッパでないものになり、ヨーロッパの人々は、世界の中で故郷と呼べる唯一の場所を失っていることであろう」(”As a result, by the end of the lifespans of most people currently alive Europe will not be Europe and the peoples of Europe will have lost the only place in the world we had to call home.”)
中野氏は、移民の受け入れに否定的な言及をすることは、欧州のエリートでも差別主義者・排外主義者として激しい非難を浴び、社会的地位を失うほどのタブーであることを指摘された上で、マレー氏がこのタブーに敢えて挑んだと評しました。
そして、ヨーロッパの移民・難民問題の決定的な転機となったのは、2015年であったと指摘されています。その年の8月には独・メルケル首相の大胆な門戸開放宣言がなされ、直後には海岸に打ち上げられたシリア人の3歳の男の子の遺体写真が報道され、世界に衝撃を与えました。
これらの出来事が、反対の声をかき消してしまい、難民の割当に抵抗していたイギリスも、方向転換を余儀なくされることになったのです。
コラム:難民危機、メルケル独首相の「遺産」となるか(2015年9月15日・ロイター)
シリア移民の幼児が溺死、写真が世界に衝撃(2015年9月3日・BBC NEWS JAPAN)
ドイツは、2016年だけで68万人もの移民を受け入れましたが、現在は、難民・移民政策を巡る対立が激化し、メルケル氏率いる保守連合の支持率は過去最低を記録したことが報じられています。
独メルケル首相の保守連合、支持率が過去最低に 極右は過去最高を記録(2018年8月3日・ロイター)
メルケル独政権が移民政策で分裂 連立崩壊の危機か(2018年6月15日・BBC NEWS JAPAN)
大きな反発が起きることには、当然ながら相当の理由が存在しています。そもそも先程の、
「ヨーロッパは自殺しつつある。あるいは、少なくともその指導者たちは自殺することを決めた」
というマレー氏の文章が含意しているのは、移民・難民受入れの急増は、欧州各国の一般国民の大多数が望んだわけではなく、
「指導者たち」
が推し進めているということです。そして、一般国民の反対理由は、雇用への影響のみならず、犯罪や治安悪化も大きいのでしょう。
ユダヤ人への襲撃事件や、女性や少年への性犯罪が各国で増加している「現実」が正しく報じられていないという衝撃の事実も指摘されています。
- 英国で2004年から2012年にかけて9人のイスラム教徒から成るギャングが非イスラム教徒の11歳から15歳の少女を性奴隷として売買 → メディアはギャングを「アジア系」とのみ報道したため、法廷で明かされるまで表面化せず
- 2003年の時点でヨーロッパ監視センターは、欧州における反ユダヤ主義的活動の活発化は若いイスラム教徒によるユダヤ人襲撃によるものだと把握しながら、握りつぶしていた → フランスでは2013年から2014年の間に、ユダヤ人に対する襲撃事件が851件に達した
- ドイツで多発した性犯罪の容疑者が移民である場合、民族的・文化的アイデンティティの公表をしないように「反差別」団体が警察に圧力をかける
- 2015年、「ノー・ボーダー」運動の女性活動家がイタリアとフランスの国境付近でスーダン人移民の集団から強姦被害に合った → 仲間の活動家が被害を認めないよう被害者に要求
「マスメディアによる差別論者や排外主義者というレッテルは、一般国民の移民や難民に対する不安の声を黙殺し、事実すら封殺したのである」
『日本の没落』
という指摘には、背筋が寒くなります。
さて、欧州では移民・難民受入れの急拡大がもたらした様々な問題や矛盾に対する大きな反発が起きており、今後も政治的・社会的混乱が続くことは避けられないでしょう。ここから方向転換が図られたとしても、マレー氏の指摘どおり、ヨーロッパは既に手遅れなのかもしれません。
それでは、我が日本はどのような状況にあるでしょうか。
安倍内閣が6月に閣議決定した「骨太方針」の「第2章 力強い経済成長の実現に向けた重点的な取組」には、
「4.新たな外国人材の受入れ」として、様々な在留資格の新設方針が盛り込まれただけでなく、
- 「従来の外国人材受入れの更なる促進」
- 「外国人の受入れ環境の整備」
も謳われています。
「経済財政運営と改革の基本方針2018(骨太方針」(内閣府)
これは一気に事実上の「移民受け入れ」に踏み込んだ重大な転換と言わざるを得ないものです。
安倍政権が突然「外国人労働者受け入れ」に転換した分かりやすい事情(2018年7月31日・現代ビジネス)
そもそも、国連が「移民」の一般的な定義としているのは、
「移住の理由や法的地位に関係なく、定住国を変更した人々」
であり、
「1年以上にわたる居住国の変更を長期的または恒久移住と呼ぶ」
難民と移民の定義(国際連合広報センター)
というものです。
政府はこれでも、「移民政策ではない」と強弁し続けているのですから、もはや「異常事態」でしょう。
安倍首相は自民総裁選出馬へ、政権継続に決意-菅官房長官(2018年7月23日・Bloomberg)
そして、2年後の東京五輪を控え、大会組織委員会会長の森喜朗元首相の要請から、突如サマータイムの導入が持ち上がりました。
暑さ対策でサマータイム導入を検討 東京五輪・パラリンピックの開催はもはや戦争の遂行と同じなのか(2018年8月9日・ニューズウィーク日本版)
森喜朗氏の要請で検討のサマータイムに反対噴出…国民の健康と生活に多大なデメリット(2018年8月9日・Business Journal)
酷暑への懸念はもっともですが、開催時期の変更が不可能である以上、このような小手先の対応は殆ど弊害しか産まないでしょう。そもそも、サマータイムはEUでも廃止議論がなされているだけでなく、我が国が採用していないことにも、歴史的経緯があるのです。
世界で反動が沸き起こっている潮流に、その背景に目を向けることなく周回遅れで参加しようとする我が国の情けなさが、ここにも表れているような気がしてなりません。
会員の皆様は、我が国が抱える問題の本質を改めて理解するために、ザ・リアルインサイト2018年8月号で配信中の中野氏の講演会収録映像を、是非じっくりとご覧下さい。
- 経済ナショナリズムとは何か
- 国民、国家、国力とは何か
- 「国家が国民を作る」とは?
- 国家と国民の真の関係とは?
- 戦争と国民的統一の関係
- ナショナリズム=悪という誤解
- ナショナリズムなくして民主主義なし
- ナショナリズムと福祉国家
- ナショナリストが格差を嫌う理由
- 世界経済の政治的トリレンマとは?
- グローバリゼーションVS.民主主義
- 日本に財政問題が存在しない理由
- 租税は財源確保の手段ではない
- 「租税」の本当の目的とは?
幅広く、高度な内容ですが、とても平易に語り尽くされています。また、『ヨーロッパの奇妙な死』にご関心をお持ちいただき、私と同様に原書での読破が難しいと思われる方は、是非中野氏の
をお手にとっていただければと思います(「第四章 リベラリズムの破綻」で、『ヨーロッパの奇妙な死』の概要が取り上げられています)。
なお、こちらのご著作は、今から100年前に出版されたベストセラーである、ドイツの歴史学者オズヴァルト・シュペングラーの
『西洋の没落 I』 (2017年・中公クラシックス)
『西洋の没落 II』(2017年・中公クラシックス)
を下敷きにして、現在の日本を論じたものです。100年前に「文化の没落としての文明」を論じていたシュペングラーの予言には、なるほど目を瞠るものがあります。
こちらについても、『日本の没落』で詳細に取り上げられていますので、ご一読いただければ幸いです。
それでは、また。
今日も皆様にとって幸多き1日になりますように。
日本のよりよい未来のために。
私達の生活、子ども達の命を守るために、ともに歩んでいけることを切に願っています。
リアルインサイト 今堀 健司
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