おはようございます。リアルインサイトの今堀です。

非常に強い台風21号が、本日には上陸する見通しだということです。皆様、くれぐれもご注意ください。

さて、今年もノーベル賞の発表日が近づいて来ましたね。発表予定日は以下の通りだそうです。

  • 医学生理学賞:10月1日
  • 物理学賞:10月2日
  • 化学賞:10月3日
  • 平和賞:10月5日
  • 経済学賞:10月8日
  • 文学賞:今年の発表なし

これまで、自然科学3分野(「化学」、「医学生理学」、「物理学」)での日本人受賞者(受賞時に日本国籍)は23人ということですが、今後の受賞については、悲観的な予測が少なくないようです。2016年に「医学生理学賞」を受賞した大隅良典(おおすみ よしのり)氏は受賞時に、

「日本の大学の状況は危機的で、このままいくと10年後、20年後にはノーベル賞受賞者が出なくなると思う」

と発言されました。

日本人はノーベル賞を取れなくなる? 進む科学技術力のちょう落(2017年10月1日・NHK NEWS WEB)※アーカイブ

ザ・リアルインサイト2018年6月号インタビューに登場された京都大学大学院准教授の柴山桂太(しばやま けいた)氏も、

「京都大学にはノーベル賞の伝統があったが、今後は間違いなく出なくなる

と断言されています。

それはもちろん、「国立大学運営費交付金」「財政難」を理由に毎年削減され続けているなど、研究環境が悪化しているために他なりません。

上記NHKのサイトでも、

「全国の国立大学に国から配分される運営費交付金は、法人化された平成16年からの13年間で1445億円が削減

されており、この額は、

「配分額が多い東京大学と京都大学を足し合わせた額に匹敵」

するという恐るべき事実が指摘されています。

その他にも、危機的状況を指摘する報道は少なくありません。

土台から崩れゆく日本の科学、疲弊する若手研究者たち(2018年5月18日・月刊Wedge)

日本の科学研究はこの10年間で失速していて、科学界のエリートとしての地位が脅かされていることが、Nature Index 2017日本版から明らかに(2017年3月22日・natureasia.com)

この背景にあるのは、いうまでもなく「財政難」という前提での緊縮財政路線です。

しかし、前回もお伝えした通り、我が国には「財政問題」など存在していません。

「デフレ脱却」にも、「経済成長の復活」にも財政出動が必須であることは、これまでにザ・リアルインサイトにご登場された多くの講師の方々が繰り返されてきた通りです。

財政均衡のための歳出削減と増税が、より財政悪化を深刻化させてきたというのが事実でしょう。誤った解決手法を用いることで、問題をより深くし続けるどころか、このままいけば遠からず日本経済は

「再起不能」

に陥ってしまうのではないでしょうか。

「角を矯(た)めて牛を殺す」(枝葉にこだわって肝心な根本をそこなうことの例え)

という諺がどうしても浮かんでしまうような惨状ですが、この問題の根底にも、「経済学」が大きく関係しています。

そう言えば、

「ノーベル経済学賞」

というものがありますね。

あまり知られていないことなのではないかと思われますが、実は「ノーベル経済学賞」は、厳密には「ノーベル賞」ではありません。

「物理学」、「化学」、「医学・生理学」、「文学」、「平和」の5分野の賞は、アルフレッド・ノーベルの遺言に基づき、1901年から始まっていますが、「ノーベル経済学賞」はそれとは別に、スウェーデン国立銀行の設立300周年を記念して1968年に新たに設立されたものです。

ノーベル財団は「経済学賞」を「ノーベル賞」とは認めておらず、公式サイトでも「Prizes in Economic Sciences」(経済学賞)とのみ表記しています。
https://www.nobelprize.org/prizes/uncategorized/all-prizes-in-economic-sciences/

ノーベル賞は特に「物理学」「化学」「医学・生理学」の3分野が自然科学界で最高の栄誉とされており、経済学が元々対象とされなかったのも、社会科学であるためなのでしょう。

1965年にノーベル物理学賞を受賞した著名な物理学者、リチャード・P・ファインマンは、経済学を含む社会科学を、エセ科学(pseudo-science)であるとして、

「科学が成功したので、エセ科学が現れました。社会科学は、科学ではない科学の一例です。科学の形式にならい、データを集めに集めるのですが、何の法則も発見できません」

とまで断じています。

社会科学が「エセ科学」であるとは思いませんが、確かに自然科学とは異なるものでしょう。それにも関わらず、経済学者が長きに渡って「自然科学」の体裁を装おうとしてきたことは、間違いないようです。少し長くなりますが、他ならぬ経済学者による経済学者批判を引用してみます。

経済学者たちはあまりにしばしば、自分たちの内輪でしか興味を持たれないような、どうでもいい数学問題にばかり没頭している。この数学への偏執狂ぶりは、科学っぽく見せるにはお手軽な方法だが、それをいいことに、私たちの住む世界が投げかけるはるかに複雑な問題には答えずに済ませているのだ」

『21世紀の資本』トマ・ピケティ著(みすず書房,2014年)P.34

経済学に求められる役割とは、複雑高度化した現実経済を分析し、状況に見合った政策を選択可能にすることにこそあるのではないでしょうか?

私を含む国民の多くは、それを望んでいるのではないかと思います。

そこで、私のような門外漢でも経済学の大まかな歴史と、その問題点を理解しやすい書籍を最後にご紹介させていただきます。

『経済学者はなぜ嘘をつくのか』(青木泰樹著,アスペクト,2016年)

ザ・リアルインサイト2018年月号の講演会収録映像にご登壇いただいた、京都大学レジリエンスユニット特任教授青木泰樹(あおき やすき)氏のご著作です。厳しい書名ではありますが、青木氏も経済学者でいらっしゃりながら、学者としての信念で主流派経済学を批判され、現実を分析するための「経済社会学」の確立を提唱されてきました。

また、より学術的な内容の、

『経済学とは何だろうか―現実との対話』(青木泰樹著,八千代出版,2012年)

もお薦めです。こちらは少しとっつきにくいかもしれませんが、どのような内容であるかについては、アマゾンのレビューもご参考としていただけるでしょう。

【引用図書】

『21世紀の資本』(トマ・ピケティ著,みすず書房,2014年)

『経済学者はなぜ嘘をつくのか』(青木泰樹著,アスペクト,2016年)

『経済学とは何だろうか―現実との対話』(青木泰樹著,八千代出版,2012年)

それでは、また。

今日も皆様にとって幸多き1日になりますように。

日本のよりよい未来のために。

私達の生活、子ども達の命を守るために、ともに歩んでいけることを切に願っています。

リアルインサイト 今堀 健司

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