令和元年も残すところ3週間を切りましたが、今週は全国的に暖かい日が続いていたようですね。それでも、これから北日本では、暴風や暴風雪、大しけとなる所がある見込み* ということですので、是非十分にお気をつけいただきたいと思います。

さて、新たな御代を迎えたばかりの日本に、経済を再起不能にしかねないとどめの一撃というべき、

10%への消費増税

が強行されてから、2か月が過ぎました。増税直後の10月8日付のメール(「消費増税とMMT(現代貨幣理論)」)でも、

“日本経済がどれほどの破壊的影響に襲われるかは今後、次々に明らかになることでしょう・・・”

と書きましたが、早くも驚くべき惨状が伝えられ始めています。

まず、12月6日に総務省が発表した10月の家計調査では、1世帯あたり消費支出が279,671円、実質で前年同月比5.1%減となりました。このマイナス幅はなんと、今回よりも大きい3%の増税が実施された2014年4月(4.6%減)を上回っています。*2

また、同じく6日に内閣府が発表した10月の景気動向指数(CI,2015年=100)の速報値は、一致指数が前月比5.6ポイント低下の94.8となりました。*3

こちらも消費支出同様に前回増税時の下落幅(4.8ポイント)を上回ったのみならず、

「東日本大震災があった2011年3月の6.3ポイント以来の大きさ」*4

ということなので、深刻極まりない事態です。予想されたこととはいっても・・・、いえ、予想を上回る惨状が現実のものとなるなか、

「菅官房長官が、訪日外国人の受け入れ拡大に向け、高級ホテルの建設を後押しする考えを示した」*5

というニュースを見て、唖然としてしまいました。

「新たな経済対策に盛り込んだ融資制度を活用して各地に世界レベルのホテルを50カ所程度新設することを目指す」

そうです・・・。

案の定、各方面から批判が噴出しています。*6

が、今回はそれらの詳細についてではなく、ふと思い出したことについて書かせていただきます。

「クズネッツ曲線」で知られ、1971年にノーベル経済学賞を受賞した経済学者サイモン・クズネッツの

「世界には4種類の国がある。先進国と途上国、そして日本とアルゼンチンだ」*7

(“ there are four kinds of countries in the world: developed countries, underdeveloped countries, Japan, and Argentina.”)

という有名な言葉があります。

クズネッツから見た世界の国々は、先進国も途上国もほとんどが固定されていて、例外は途上国から先進国入りした日本と、先進国から途上国へ戻ってしまったアルゼンチンしかない、ということだったのでしょう。

これは現実をかなり単純化したもので、なかばジョークでもあるのですが、日本とアルゼンチンの特異性はそれだけ経済学者の目を引くものであったのだろうと思います。

ところで、

「アルゼンチンが先進国だった」

と聞くと、違和感を覚える方も少なくないかもしれません。というのも、一般的な報道に登場するアルゼンチンのイメージは、

「デフォルト(債務不履行)を繰り返している国」

というものですからね。

アルゼンチンはこれまでに、8回ものデフォルトを経験しています。*8

そして、現在も次のデフォルト懸念が高まっており、12月11日には同国のグスマン経済相が

「アルゼンチンは事実上のデフォルト(債務不履行)状態にある」*9

と発言したことが報じられています。

しかし、19世紀後半から急成長を遂げたアルゼンチンは、第二次世界大戦前まで世界有数の経済大国であり、確かに先進国の一員だったのです。あなたも、1976年に放映されたアニメ、

「母をたずねて三千里」*10

をご存じでしょう。

イタリア・ジェノバの少年マルコが、出稼ぎ先で消息を絶ってしまった母を探して、遠い異国に渡るというストーリーですね。マルコの渡航先こそ、「南米のパリ」とも呼ばれたアルゼンチンの首都、ブエノス・アイレスでした。

つまり、当時(19世紀末)のアルゼンチンは、欧州人が出稼ぎに行くほど豊かな国だったのです。

しかし、戦後の高度成長に乗り遅れたアルゼンチンは経済成長を著しく鈍化させ、途上国となってしまいました。産業構造の転換に失敗したことが主な原因と考えられており、

「経済大国が凋落するモデル・ケース」*11

ともいわれているそうです。

ここで、菅氏の「世界的高級ホテル」発言に戻りますが、別に個人攻撃をしたいわけではありません。政権幹部がこうした発言をする背景には、異常な

「外需頼みの成長戦略」

という前提が潜んでいます。

また、日韓関係悪化に伴う韓国人観光客の激減で、日本政府が目標に掲げている2020年の

「訪日客4千万人」

が危うくなっている*12

ことの影響も、決して小さくないはずです。安倍政権が力を入れてきた訪日外国人の増加は、円安の影響もあって順調に達成されてきました。2018年には3119万人もの外国人が訪れています。外国人観光客を取り上げたテレビ番組も、今は数多く放映されていますよね。

ところで、訪日外国人の国別シェアについてはどの程度ご存じでしょうか。日本政府観光局(JNTO)の資料*13 から前出の3119万人の内訳について簡単にご紹介すると、838万人の中国人が最も多く、約26.9%を占めています。

次が753.9万人(24.2%)の韓国人ですので、中韓2カ国だけで5割を超えてしまいました。

3位が475.7万人(15.3%)の台湾、4位が220.8万人(7.1%)の香港と続きます。上位4カ国だけで、73.4%に達していますね。

さらにインドやタイ等を加えたアジア全体だと、85.6%という圧倒的多数になってしまいます。対して、欧米豪は合わせても11.6%にとどまっているのですが、意外に思われませんでしたか?

テレビ番組に取り上げられるのは白人が大多数ですので、実態を反映しているとは言い難いですよね。

なお、単純比較はできませんが、昨年1年では24.2%を占めた訪日韓国人が、今年10月では7.5%となっており、10月の訪日客数自体も昨年同月比で5.5%の減少となっています。*14

韓国人観光客は元々4分の1近いシェアを持っていたわけですから、その激減は確かに政策目標の達成を難しくしている要因なのでしょう。

しかし、外需というのはそもそもコントロールが難しいものです。外交関係に限らず、相手国の事情でいつどう変化するかわかりません。そんなものを成長戦略の要と考えることの異常さを、今こそきちんと再考すべきでしょう。

GDPの計算式を思い切り単純化すれば、

GDP=民需+公需+外需

となります。そして、我が日本は長年民需の個人消費がGDPの6割近くを占めてきました。*15

全体から見れば誤差の範囲でしかない外需頼みの成長戦略など、本末転倒としか言いようがありません。本来、観光客誘致や輸出拡大というのは、内需の弱い途上国の成長戦略です。

消費増税と緊縮財政で最も重要な個人消費を罰し続けているだけでなく、訪日外国人の増加だのインバウンド消費の拡大だのに血道を上げているのですから、日本の経済政策はもはや狂気の沙汰です。

2001年にアルゼンチンがデフォルトして以降、長期停滞に苦しむ日本も

「いずれアルゼンチンのようになる」

という言説が何度となく繰り返されてきました。別バージョンとして、菅直人元首相の

「日本もギリシャみたいになっちゃうよ」*16

という馬鹿げた発言もありました。これは、

「だから消費増税が必要」

という前提で飛び出した妄言ですが、ありもしない前提が誤った政策に結びつき、結果として状況をさらに悪くし続けてきたのが日本です。バカげた「財政破綻神話」も異常な緊縮財政を招き、結果として財政状態をより悪化させ続けてきました。

同様に、経済の大黒柱である内需を痛めつけ、取るに足らない外需頼みで成長を目指すという馬鹿げた政策が続くならば、遠からず日本は途上国に逆戻りしてしまうことでしょう。

そうなれば、クズネッツが途上国から先進国入りした「唯一」の国と評した我が国は、

「再び途上国に戻った」

というさらに稀有な存在となってしまうわけですね。そのような最悪の未来を現実のものとしないために、

「高級ホテル50新設」

のような個別事象だけでなく、その根底に流れる思想の誤りに、我々はもっと目を凝らすべきなのだと思います。

それでは、また。

リアルインサイト 今堀 健司

【引用・参照文献等】

* 週間天気予報(2019年12月12日,気象庁)

*2 10月の家計調査、消費支出は5・1%減…11か月ぶりマイナス(2019年12月6日,読売新聞)

*3 10月の景気一致指数、5.6ポイント低下(2019年12月6日,日本経済新聞)

*4 10月の景気指数、5.6ポイント低下 消費増税で、前回上回る落ち込み(2019年12月6日,JIJI.COM)

*5 高級ホテル、50新設へ支援 菅官房長官(2019年12月7日,JIJI.COM)

*6 菅官房長官「高級ホテル50カ所」発言に被災地は怒り心頭(2019年12月11日,東京新聞)

*7 春秋(2017年5月21日,日本経済新聞)

*8 アルゼンチン、大統領選前に市民がドルに殺到(2019年10月27日,日本経済新聞)

*9 アルゼンチン経済相「事実上デフォルト状態」と発言 財政均衡は実現せず(2019年12月12日,日本経済新聞)

*10 母をたずねて三千里 第1話「いかないでおかあさん」(日本アニメーション・シアター)※動画です

*11 国家破綻の研究。アルゼンチンの事例から学べること(2012年11月24日 The Capital Tribune Japan)

*12 韓国観光客激減、九州・大阪痛手 訪日4000万人目標ピンチ(2019年8月30日,産経新聞)

*13 訪日外客数(2018年12月および 年間推計値)P.3(2019年1月16日,日本政府観光局)

*14 訪日外客数(2019年10月推計値)P.4(2019年1月16日,日本政府観光局)

*15 GDPについて知る(2018年4月2日,nikkei4946.com)

*16 菅首相は、全く的外れ ギリシャの財政危機から何を学ぶのか?(2010年7月2日,しんぶん赤旗)

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