いよいよ平成も残すところ2か月を切ってしまいましたね。来月30日には今上陛下が御退位され(退位の礼)、翌5月1日には皇太子殿下が御即位されます。

同日午前0時に新元号が施行され、改元となりますが、

「丸ごと失われた時代」

とまで評される、世界に類を見ない停滞から脱する再興元年とすべき新たな御代の始まりの年に、日本経済にとどめを刺すであろう

「消費増税」

という最愚策が準備されています。

ザ・リアルインサイトの講演会やインタビューにもご登場いただいている、京都大学大学院教授の藤井聡(ふじい さとし)氏が昨年末に内閣官房参与をお辞めになったことから、「三度目の正直」として、消費増税が強行されるという見方※1 も出ているようです。

ザ・リアルインサイト会員の皆様は、

「10%への消費増税が、日本経済を破壊する」

とまで断じている藤井氏のインタビュー(2018年12月号)を、是非改めてご視聴ください。

さらに、それよりも早い時期、「平成最後の月」となる4月の1日には、昨年末の臨時国会で成立した、

「改正入管法」

が施行されます。エイプリルフールではありますが、残念ながら、これはウソではありません。衆参両院合わせて38時間という、前代未聞の短い審議時間で採決に持ち込まれた※2 結果として、

ついに、

「本格的な移民受入れ」

が開始されることになりますので、前回とは少し視点を変えて、移民受入れの拡大がもたらす可能性のある問題を考えてみたいと思います。

繰り返しご紹介してきた

『西洋の自死』※3(ダグラス・マレー著,町田敦夫訳,東洋経済新報社)

では、「惨状」と評する他ない欧州の現実が数多く紹介されていますが、同書はサブタイトルが

「移民・アイデンティティ・イスラム」

となっている通り、最もタブー視されていると言っても過言ではない、イスラム教徒の問題にも果敢に斬り込んでいます。

登場する具体事例には、他ならぬイスラム教徒による、原理主義への異議申し立ても登場するものの、数ある問題の中でも、

「非イスラム教徒に対する性犯罪」「ユダヤ人への襲撃増加」

は、深刻極まりない事態となっており、要約すれば、次のような事実が取り上げられています。

  • 英国で2004年から2012年にかけて9人のイスラム教徒から成るギャングが非イスラム教徒の11歳から15歳の少女を性奴隷として売買 
    → メディアはギャングを「アジア系」とのみ報道したため、法廷で明かされるまで真相は表面化しなかった
  • 2003年の時点でヨーロッパ監視センターは、欧州における反ユダヤ主義的活動の活発化は若いイスラム教徒によるユダヤ人襲撃によるものだと把握しながら、握りつぶしていた
    → フランスでは2013年から2014年の間に、ユダヤ人に対する襲撃事件が851件に達している

「同胞」が犠牲となる恐るべき犯罪の激増が正しく報道されない現実には、戦慄を覚えざるを得ません。

ただ、イスラム教徒の問題は上記の例に限ったものではなく、その全てを

「キリスト教対イスラム教の対立」

という単純な図式では説明できないという主張もあります。

欧州におけるムスリム(イスラム教徒)移民の研究をご専門とされている地理学者の内藤正典(ないとう まさのり)氏は15年前の著作で、

「イスラームが異議を申し立てている相手は、むしろキリスト教という宗教文明の規範から離れた後に成立した西洋近代文明なのである」※4

と指摘されています。

つまり、ルーツを同じくする一神教同士の単純な対立ではなく、世俗化が進んだ近代文明と、より原理的な宗教文明との対立

という見方なのでしょうが、こちらにも一定の説得力を感じます。

いずれにせよ、イスラム教徒の中には、非イスラム教徒に対する「徹底した不寛容さ」を持つ層が存在する

という事実こそ、我々日本人がしっかりと認識しなければならないのではないかと思います。

例えば、『西洋の自死』にも取り上げられていますが、かつて「イスラム教を冒涜するものである」とされた小説の作者に対し、イランの最高指導者であったホメイニ師が

「死刑宣告」を下した※5

ことがありました。

作者本人はイギリス警察の保護対象となり、現在も存命ですが、翻訳を手がけるなどした関係者が各国で襲撃を受ける事件が相次ぎました。

日本でも、1990年に同書を邦訳した筑波大学助教授(当時)が、翌年同大学の筑波キャンパスで刺殺されるという大事件が起きています(なぜか『西洋の自死』ではこの事件に触れられていませんが……)。

リベラルが「寛容さ」を発揮して招き入れた人々が、「不寛容さ」を持っていた場合の矛盾に、果たして解決策はあるのでしょうか?

欧州ですら「世俗化」が対立要因となっている現実があるのだたとすれば、歴史的に宗教タブーを殆ど持たず、世俗化の極みにあるとも言える我が国で、より深刻な問題が発生することは不可避なのではないかと思われます。

また、

世俗化した近代文明 対 原理的な宗教文明

イスラム教徒 対 非イスラム教徒

といった、単純な図式で語ることはできませんが、日本における具体事例として、

イスラム教徒の土葬※6

は、すでに社会問題になりつつあります。

キリスト教でも本来火葬はタブーでしたが、1963年にローマ教皇庁が消極的ながら許可※7したことから、フランス等のカトリック国でも火葬が増えたようで、これも一種の世俗化と言いうるかもしれませんが、推奨されているのは、飽くまでも土葬です。

日本では法的に禁じられてはいないものの、自治体等の対応から、事実上土葬はかなり難しい地域が大半です。

今後、イスラム教徒の移民が増えて、この問題が拡大すれば、根本的な解決は非常に難しいものになるでしょう。

ここで、『西洋の自死』に戻りますと、著者のマレー氏が強調しているのは、かつての植民地支配という

「罪悪感」

が西洋を支配していることが、リベラルな政策の背景にあるという事実であり、現在の欧州は歴史上の悪行を償うプロセスとして、

「帝国の逆襲」

を受けている真っ最中であるという指摘です。もちろん、これも重いものですが、国民の大多数が現状すら正しく認識できないままに、より大きな問題に突入しようとしているのが現在の日本です。

「外国人犯罪」の実態が、正しく報じられないという問題は、欧州だけでなく、我が国にも存在しています。

のみならず、国際的な定義からすれば、日本はすでに「移民大国」であるという現実もあります。

ザ・リアルインサイト2019年月号では、元警視庁刑事・通訳捜査官の坂東忠信(ばんどう ただのぶ)氏のご講演

「移民政策の拡大がもたらす亡国の危機」

を配信しております。会員の皆様は、こちらも是非じっくりとご視聴下さい。

それでは、また。

【参照・引用文献等】

※1【経済インサイド】“反増税”の急先鋒が官邸去る 「三度目の正直」確実か(2019年2月25日・SankeiBiz)

※2 「検討中」だらけの改正入管法 11の珍言で成立を振り返る(2018年12月18日・文春オンライン)

※3 『西洋の自死』(ダグラス・マレー著, 東洋経済新報社, 2018年)https://www.amazon.co.jp/dp/4492444505

※4 “イスラーム世界との共生が困難だという言説は、今日の西欧世界に広く流布している。日本でも、イスラームが世界の紛争の種になるのは、イスラーム対キリスト教、イスラーム対ユダヤ教の怨念の集積によるものだという説明を聞くことがしばしばある。しかし、宗教対立が根底にあるのだという説明では、現代世界で起きているイスラームとの緊張関係の原因を解明することはできない。イスラームが異議を申し立てている相手は、むしろキリスト教という宗教文明の規範から離れた後に成立した西洋近代文明なのである”
『ヨーロッパとイスラーム』(内藤正典著,岩波新書,2004年)P.160

※5 悪魔の詩 – Wikipedia

※6 イスラム教徒墓難民 九州土葬用施設なく 偏見や抵抗感…新設に壁(2018年1月12日・西日本新聞)

不足する「ムスリム霊園」 日本で暮らすイスラム教徒の“永眠の地”はどこに(2017年9月7日・BuzzFeed News)

※7 カトリック国でも火葬が急増、フランスの法令では「骨つぼは暖炉の上へ」(2007年6月16日・AFP BB NEWS)

死者の灰は「聖なる場所に」安置を、バチカンが新規則(2016年10月26日・ロイター)

教皇庁教理省『死者の埋葬および火葬の場合の遺灰の保管に関する指針 (Ad resurgendum cum Christo)』の日本の教会での適応について(2017年7月20日・カトリック中央協議会)

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