おはようございます。リアルインサイトの今堀です。

あなたは「トンデモ本」という言葉をご存じですか?
今から20年以上前の1995年に『トンデモ本の世界』という書籍が刊行されました(文庫化もされています)。

その後も、関連書籍がシリーズで多数出版されていますが、著者は「と学会」という団体です。
同会の定義に拠れば、

「著者の知識の欠如や妄想により、著者の意図とは異なる楽しみ方ができるようになってしまった本」

を「トンデモ本」と呼ぶそうです。「と学会」には、オカルト、超常現象、疑似科学、陰謀論等を批判的に取り上げる団体というイメージもあるようですが、それだけではなく、小説やベストセラーに
なったハウツー本、漫画等も含め、様々な本を俎上に載せています。

SF作家の山本弘(やまもと ひろし)氏という人物が設立メンバーの中心で、数年前まで会長も務められていました。この方が、2つの中学校でご著作に関連した講演を行った際に、

中学生の間にどれぐらいニセ科学が浸透しているか

山本弘のSF秘密基地BLOG

という趣旨の調査をされたことを、ご自身のブログで明かしています。その記事はタイトルからして衝撃的で、

中学生の6割は「月は西からのぼる」と信じている。(1)

というものです。

タイトル通り、

太陽は東からのぼり、月は西からのぼる。

という設問に対し、

信じている」、「やや信じている」という回答が約6割(59.8%)を占めたそうです。

もう一例を挙げますと、

月の表面は無重力である。

という設問も、「信じている」、「やや信じている」という回答が過半(51.8%)となっています。

いずれも驚愕を禁じ得ない結果ですが、ここでお伝えしたいのは、

  • 教育が劣化している
  • 文科省が間違っている
  • 日教組が悪い

といったようなことでは全然ありません。

「常識」であるべき基礎的な科学知識ですら、浸透させるのがいかに難しいかが明らかになっているのではないかということです。

この調査結果を嘆いたり、笑ったりするのは簡単です。

それでも、大人になったというだけで、誰でも同じ設問に対して正しい回答ができるようになるものでしょうか?

そこで、あなたにも一つ設問にチャレンジしていただきたいと思います。

先月、約5カ月半に及んだ国際宇宙ステーション(ISS)への長期滞在から、宇宙飛行士の金井宣茂(かない のりしげ)さんが帰還されました。ISS内でプカプカ浮いている金井さんの姿を、テレビのニュース等でご覧になった
方も少なくないことでしょう。

お考えいただきたいのは、そのISSに関連する以下の設問についてです。

ISSは地球から離れた宇宙空間にあるため、無重力である。

以下から回答をお選び下さい。

  • 信じている
  • やや信じている
  • 知らない・わからない
  • やや疑っている
  • 信じない 

いかがでしょうか?

山本氏の設問に習い、「信じているかどうか」をお尋ねしましたので、どうお答えいただいたとしても正解とも間違いとも言えないかもしれません。

しかし、「正しい」か「正しくない」かで言えば、この設問(命題)は

【明白な誤り】

です。

厳密に言えば、宇宙空間に「無重力」の場所は存在しません。「万有引力の法則」を発見したアイザック・ニュートンは、

「その強さは距離の2乗に反比例する」

としました。

つまり、物体と物体の距離が離れるに従い、及ぼし合う引力は限りなく弱くなっていきますが、ゼロにはならないのです(正確には「引力」と「重力」は異なりますが、ここでは措きます。措かせて下さい)。

そして、ISSは、地上400kmの軌道を秒速約7.7km(時速約27,700km)で飛行しています(これは、90分で地球を1周、1日で16周する速度で、マッハ22を超えます。そして、そもそも衛星やISSを周回軌道に投入するには「第一宇宙速度」を超えるために、更に速い初速度が必要です)。

ISSが飛んでいる地上400kmとは、我々の日常感覚で言えば、想像すら難しい程の、とてつもない高度ですね。しかし、地球の直径は約12,742kmありますから、比率で考えれば3%強しか地表から離れていないことになります。

我らがサムライ・ブルーが惜しくも敗退したワールドカップのサッカーボール(公式の5号球は直径22cm)が地球だとすると、7mmも離れていないことになります。有名なリプルーグル社製の地球儀(一般的なサイズは直径30cm)に
例えても、1cm以下の高さです。

ちなみにこの場合、月は野球ボールより少し大きめで、地球儀から9m以上(!)も離れている計算になります。

こちらのサイトで実際の写真をご覧になると、よりわかりやすいかもしれません。

このスケールで考えると、ISSは殆ど地表スレスレに張り付いているようなものですね。

次に、この高度では重力が地表とどの程度変わってくるのかを計算してみます。
重力の強さは先述の通り

距離の2乗に反比例する

ので、地球の中心から地表までの距離(半径・約6,371km)から400km離れた地点の重力は、

1÷(6,771÷6,371)^2≒0.885

で、地表の約88.5%ということになります。

つまり、ISSにいる宇宙飛行士の体重は、地上の1割強だけ軽くなっているということですね。

私の目方は85kgありますが、ISSに出かければ約75kgになる計算です。
総務省の統計に拠れば、これでもまだ同身長・同年代の「平均値」を大幅に超過していますが。。。)

ともあれ、地表との差があまりないことに驚かれたのではないかと思います。

それでは、地球にいる時と体重が大きく変わらないはずの宇宙飛行士がISS内でプカプカ浮かんでいるのはなぜでしょうか?

答えは簡単で、ISSの凄まじいスピードが生み出す「遠心力」が、地球の重力と釣り合った状態だからです。

ISSにも(もちろん内部にいる宇宙飛行士にも)地球の重力は作用しているので、ISSは地表に向かって「落ち続けて」います。

しかし、同時に地表から遠ざかろうとする遠心力の働きが釣り合うことにより、同じ高度を保ちながら周回を続けられるのです。子供の頃、毎週楽しみにしていた『8時だョ!全員集合』という番組に「ヒゲダンス」というコーナーがありました。そこで、志村けんさんと加藤茶さんが振り回していたバケツから水がこぼれなかったのと、理屈は全く同じです。

いかがでしたでしょうか?

お手元に「へぇボタン」があれば、押していただける方も少なくないと思います。

長くなってしまいましたが、改めて結論を言えば、

ISS内が無重力状態なのは、宇宙空間だからではない

宇宙空間は無重力ではない

ということになります。

答えを知ってしまえば難しい話ではないものの、「宇宙空間=無重力」という思い込みは、かなり多くの方がお持ちなのではないでしょうか。

というのも、個人の狭い体験ですが、知人・友人で、正しく理解している人は圧倒的に少数派だったためです。

同様に、日食・月食や月の満ち欠けの原理等も含め、学校で習ったはずのことでも、すっかり忘れてしまっていたり、正しく説明できない人も、決して少なくありませんでした。それでも、身近な話を持ち出したのは、それを揶揄したり、あげつらおうという趣旨ではもちろんありません。

同様に、「トンデモ本」を笑うのは簡単ですが、では自分はどうなのかという視点を持ち続けることも重要だと思うのです。

ザ・リアルインサイトの情報発信についても、全く同じです。

「真の情報」をお届けするにあたり、より広く、より正確にご理解いただくことの難しさを意識し続けるとともに、自分はどうなのか、という自省を常に忘れないようにしていきたいと思っています。

【追伸】
ほとんど書き終わった後、山本氏がブログ記事の続きに、無重力の話を取り上げていることに気づきました……。

中学生の6割は「月は西からのぼる」と信じている。(2)

  • 物理の教科書には「引力は無限遠まで届く」ことがはっきり書いてある。
  • 高校の物理教師ですら「地球の引力が届かない宇宙にいくと無重力になる」と誤って説明していた。

という驚きの記述もありました。こちらの方が分かりやすいかもしれません。。。

また、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のキッズ向けページにも、とても簡潔な説明がありました。

宇宙は無重力なんですか?

ここまでお読みいただいておいて大変恐縮ですが、是非これらのサイトもご参照いただければ幸いです。

【追伸2(という蛇足)】
JAXAに拠れば、日本人宇宙飛行士はこれまでの累計で12人しかいないそうです。日本ではちょっと他には考えつかない程、稀少な職業ですね。

宇宙飛行士ではない私達が無重力(状態)を体験できるとしたら、宇宙空間ではなく、飛行機の放物線飛行によるものでしょう。先ごろ亡くなった「車椅子の天才物理学者」スティーヴン・ホーキング博士も、かつてこの体験をされていました。

ホーキング博士、無重力を体験 – 米国(2007年4月27日・AFP BB NEWS)

また、

アメリカの「OK Go(オーケー・ゴー)」というロックバンドはユニークなミュージックビデオ(MV)で知られているそうですが、中でも放物線飛行の無重力状態を活用したMVは圧巻です。

こちらはそのメイキングビデオです。

これをご視聴になって、「自分もやってみたい!」と思われたあなたに朗報です。

国内でも、1回30万〜40万円で体験できるサービスがあるそうです。

名古屋に「無重力」あります 飛行機で作る非日常空間、パイロットに聞くその仕組み(2016年11月27日・乗りものニュース)

個人的にはちょっと手が出ませんが、豪華な旅行に行ったと思えば、ギリギリで可能な線かもしれませんね。

それでは、また。今日も皆様にとって幸多き1日になりますように。

日本のよりよい未来のために。私達の生活、子ども達の命を守るために、
ともに歩んでいけることを切に願っています。

リアルインサイト 今堀 健司